ベトナム出張報告

2022年10月ベトナム出張報告

トヨタ財団からの研究助成プログラムにおける活動の一環で、2022年10月にハノイに出張しました。
大変遅くなりましたが、以下の通り報告します。

10月20日 ティエン・ドゥック高齢者ケアセンター視察

スマホの動作不良にて画像が少なくて申し訳ないです。

こちらは郊外にある、日本でいうところの有料老人ホームの古株施設でした。
EPA帰国者の採用や周辺在住の現地未経験者を教育してスタッフに迎えており。給与設定を地域で就労するよりも高い設定にしてあることから採用に苦労はない様子。
施設は多床室から特室まで整備されており、特室は月額で日本円14万円程度というから、相当の富裕層でなければ利用できないといってよいのでしょう。
220名程度の方が入所しているそうですが、状態像についての詳細や、費用負担が可能であること以外に入所要件等が存在するのかは不明でした。

 

介護を要する方はほとんど見られず、車いす自操の方を見かけた程度でほぼ自立した方ばかりをお見掛けしましたが、リハビリテーション兼レクリエーションルーム、特浴(ミスト浴)なども整備されており、要介護状態の方も一定程度存在する、あるいは受け入れ対応できる様子です。
いわゆるジャパニーズカイゴを採り入れており、備品や用具、設備にもその様子は窺えるものの、一般浴室については不評でほぼ機能していないということでした。

これは、ベトナム文化が他者と一緒に入浴するという者になじまないためのようです。
私の知るベトナム人も、ホテルの共同浴場(温泉)には入らず、部屋風呂で済ませていましたので、こういった慣習等に対応していくことはとても大事なことでしょうが、高齢化を迎えていく中では介護側、被介護側のどちらもが妥協しなければならない点が多少なりとも出てくることは間違いありません。

日本では解き放たれた感のある家族介護に希望や意向を持っている中で、ベトナムにふさわしい介護というものはジャパニーズカイゴのスタイルと決してシンクロするわけではないことを、この一般浴槽が顕著に表しているように思えました。
また、スタッフの給与が地域で就労するよりも高い設定に出来るというのは非常に羨ましい話。
もっとも、それだけ利用料に跳ね返るのかもしれませんが。

何人かの利用者とは話をする時間を設けられました。
大型船舶の船長や医師などを務めていた方で、ベトナム国内で高収入を得ている職業の方たち。
滞在時間が極めて短かったために、この施設とは対極にある低所得者等を利用対象とした施設を視察できなかったことは残念でした。

10月21日 ベトナム看護協会第10回総会出席

午後の「高齢者介護」分科会においてAHP/AHP加盟の奈良東病院グループよりプレゼンテーションを行う。
参考https://www.youtube.com/watch?v=mc26QnTyPek

分科会座長は以下のとおり
MSN.ファム・ドウック・ムック ベトナム看護協会会長
グエン・クアン・トーン博士 カントー医科大学学長
グエン・トゥアン・ゴック ティエン・ドウック高齢者ケアセンター長
MSN.ファム・トゥ・ハー ベトナム看護協会継続教育部長
MSN.チャン・ティ・フォン・トラ セントラル老人病院看護部長

プレゼン内容を資料のまま翻訳すると以下のとおり。
・食事支援・ロ腔ケア研修の開発と評価インドネシアでのプログラムから 
 平野裕子長崎大学教授
・CNCS/VNAと日本との完全協力による高齢者介護のための基本スキル教材 
 剣持敬太 二文字屋修 AHPネットワークス
・高齢者介護の基礎技術プログラム開発および完成のプロセス 
 ファム・トウ・ハー ベトナム看護協会継続教育部長
・吐山校における介護福祉士研修モデル 
 岡田智幸 奈良東病院グループ事務局長
・日本における高齢者介護型看護モデルの育成の動向 
 山崎直美 畿央大学看護医療学科教授
・日本語教育と組み合わせた介護者養成モデル カントー医科大学にて 
 マイ・アイン CICS Vietnam Company
・依存症の評価と総合的な需要 2020中央老年病院における高齢者ケアサービス 
 チャン・ティ・フォン・トラ セントラル老人病院看護部長

「高齢者介護」という、まだベトナムではこれからの括りの分科会ではあるが、看護協会長が座長に入り、多くの参加者の中でプレゼンとそれに伴うディスカッションが行われた。
AHPに関連する剣持・岡田・マイの三者に共通するのは、すべては“日本のためではなくベトナムに介護を培うため”のものでなくてはならないということ。
我々AHPはこれまでの活動はもちろん、今回のトヨタ財団プロジェクトにおいてもベトナムがベトナムにふさわしい高齢者介護と、新たな介護専門職像を創っていくことに対する側面支援としての矜持を持ってきました。
ベトナム看護協会が現在、国に認可を求めているテキスト作成の監修にあっても、家族介護を慣習としてきたベトナムの在り方を大事にしていくべきと受け止めてきました。
プレゼンター以外にも外国人は見られ、その中から座長に対する質疑が入りました。
ベトナムが国としてどう考えているのかを問うような内容でしたが、職能団体や介護施設病院のスタッフでは答えようのない質疑。
空気の読めない関係者は、やはリ自国の介護を押し付けたりするに違いないと感じた次第です。

ムックベトナム看護協会長には離越まで歓待いただきました。
相互の“利益追求型では繋げない”のあるなしが、最後には真価が問われるところになるだろうと感じました。

10月22日 ハイフォン社視察

AHPとしては過去にも接点のある送り出し機関ですが、2019年に新社屋に移転したため表敬訪問し、見学をお願いしました。
ちなみにハイフォンの由来は地名ではなく、元々の語意である「海風」です。

 

2003年4月に設立されたハイフォン社は従業員約270、地下インフラ、日系企業コンサル、投資貿易、技能実習送り出しと多角的な事業展開を行っています。
技能実習生はこれまで4000人を送り出しており、自社新社屋と同時期に学校を買い取り、自社の工科短期大学を設立、介護学科のライセンスも取得中とのこと。
これまでベトナム国内での高卒者を送り出していたそうですが、リクルート難であることや、送り出し後の諸問題は候補者の学歴も影響しているのではないかと捉え、ターゲットを大卒や短大卒に絞り、現在では優良送り出し機関(500社中11社のみ)の認定も受けています。
自社経営の介護施設の開設も検討段階ということで、工科短期大学では熱心な日本語教育が展開されていました。

多角的事業経営体である以上、ビジネスモデルとして介護を捉えているのは当然でしょうが、だからこそ高等な教育なども提供できているということも言えます。
整備されているものは最新式のもので、潤沢な予算が使われていることが感じられました。
優良送り出し機関としての誇りが強く感じられ、数多の送り出し機関のうちのひとにぎりによる不適正な行為が、来日したベトナム人を十把一絡に違法行為の多い集団と思わせていることを憂いていました。伺う話によると、優良送り出し機関の認定は厳しい審査があるようで、他の送り出し機関との温度差はとても大きく、業界全体の底上げが課題であるということでした。
自らの方に利の多い関係をWIN-WINだと捉えるまやかしは、何もベトナムだけに限らずです。
目に見えない利にも目を向けていけるとよいですね。

2023年01月29日